野良猫に教わったこと
2007/05/11 12:00:00 社長の独り言
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昨日弊社のホスティング用サーバー入れ替えがあり、準備・作業・その後のOSのバグと思わしきトラブル対応に追われ、まともに睡眠も食事も取れていない状態でした。
当然ふらふらしながらも何とか出社してサーバーの監視。
ちなみにサーバー構築や入替えについての詳細は別の機会で。本日はちょっと変わった話題をば。
妻からの電話
自転車で勤務先に向かう途中の妻から慌てた様子で電話がありました。
車に撥ねられて血まみれで動けなくなった猫をどうしようか?と。
おそらく妻は『仕事を抜けて車で来れないか?』あるいは『自分のいる近所の動物病院を探してくれ。』というつもりだったのでしょう。
電話を受けながら、私はちょっと違うことをCPUフル回転で考えていました。
選択肢①:最後まで責任が持てないなら、野良猫の運命と理解し見捨てる。
選択肢②:病院に連れて行き、治療を終えたら野良に返してやる。
選択肢③:病院に連れて行き、治療を終えたら家で面倒をみる。
選択肢3つのcase分岐。どの選択肢にも一理あり、どれが正解とは断言できません。
ここから先は自分の考え方次第だと。
実は家では既に3匹の猫を飼っており、どれも元野良猫or捨猫の赤ちゃんをを拾って育ててきた猫たち。
現状でも我が家は目一杯。精神的にも時間的にも。じっくり考えたい所ですが、事は急を要します。
私の妻に対する答えは、『タクシーで行きつけの動物病院に駆けつけろ!』
この方法が最速で、しかも間違いがないから。もしタクシーを汚してしまったら、チップ渡すか弊社までお金を取りに来ていただけばいい。
妻は指示通り猫を動物病院に預け、仕事に向かいました。
病院を訪問
仕事の合間に、動物病院を訪問しました。早速受付の女性に状況を尋ねると、
『何とか容態は落ち着きましたが、詳しくは先生からご説明します。』
なんだか違和感を感じました。気を持たすような言葉遣いなのに、表情はにこやか。単なる営業スマイルには見えない・・・
ともかく、先生に状況をご説明いただきました。
・レントゲンや血液検査からは、内臓のダメージは見受けられない。
・同じく、骨折も見当たらない。
・脳内出血や脳の腫れ、隠れた内臓のダメージで容態が急変する可能性もある。
とのことでした。
不安が残ってはいるものの、一安心。と思いきや、『実は・・・』とお見せいただいたレントゲン写真にビックリ!
なんと、
お腹の中に赤ちゃんが・・・いっぱい・・・
えぇーーーーーー
受付の女性の表情の謎が解けました。そういうことだったのか。
恐る恐るいつ頃産まれそうかと訊ねると、
『いつ産まれてもおかしくありませんねぇ。遅くとも一週間以内には・・・』
えぇーーーーーー
ここから内容が深刻になってきます。
『お母さんと子供の生命、どちらを優先されますか?』って。
えぇーーーーーー
そんなこと、私が決められるわけないじゃないですか?
自分の身内やペットの場合でも相当悩むと思いますよ。
とはいえ、結論をださなければ。
先生にそれぞれのリスク等についてお話をうかがいました。
・お腹の中の赤ちゃんの容態は不明。既に亡くなっている子もいるかもしれない。
・亡くなっている子をお腹に残しておくと、母猫に危険を伴う。
・容態が良くなってすぐ子宮摘出すれば母猫のリスクは減るが赤ちゃんは亡くなる。
・出産を待てば母猫に負担がかかり、死産だった場合に産道で詰まり母猫もお腹に残った子猫も危険になる。
うぅーん。理屈はわかりました。あとは私の決断次第。本日2度目です。
運良く助かった後の問題も大きい。
・病み上がりの母猫が子猫を育てることができるのか?
・母猫はともかく、子猫たちの里親を見つけることができるのか?
・家でこれ以上猫の面倒を見れるのか?しかも産まれたての子猫達を?
・新入りたちは、家の気難しい古株の猫たちと上手くやっていけるのか?
・夫婦共働きで、子猫が成長するまでの間どうやって世話をするのか?
などなど。
私のCPUは、if文やcase文が複雑に入り組んだ出来の悪いプログラムのお陰で焼きつく寸前です。
ここでさらに、先生に追い討ちをかけられました。
『内臓や骨にダメージが見当たらないのは奇跡的です。お腹の羊水や子供たちがクッションになってくれたのかも。それだけに・・・』
もう限界です。お願いですから勘弁してください。
ずっと我慢していましたが、ホント久しぶりに目から汗が出てきました。
私のCPUはFATAL ERRORで停止状態。
Windowsで例えるとブルー画面、Linuxで例えるとカーネルパニック。
正直に言うと、ここで私は思考を放棄しました。一旦リセットしよう。
こうなれば本人(猫?)に聞くしかないと。
猫と初対面
ケージの中を覗くと、身動き一つせず『彼女』は固まっていました。
でも、なんとなく違和感を感じました。違和感も本日2回目。
恐怖や緊張で震えることもなく、声を掛けてもピクリとも動かず。家で飼っている猫や、普段見慣れた野良猫たちの仕草とは明らかに異なるものでした。
相当なショックを受けて緊張しているんだろうな・・・とその時は思ったのですが。
本気で
お腹の子供は亡くなり今後出産もできなくなるけど、自分の生命を助けるか?
自分の生命を賭けてでも子供を産みたいか?
と問いただしてみたかったのですが。
数分間経ったでしょうか、ふと自分の考えに大きな間違いがあることに気付きました。
『猫がどうしたらいいか応えてくれるわけない!』って事じゃないですよ。それ以前のもっと根本的な問題に。
気付いたこと。
彼女には、元々『選択肢』なんて存在しないんですよ。
ドライに表現すれば、大脳が人間のように発達していない猫がif、case、while等のロジックを組み立てられるはずもないんです。
彼女には『もし子供が助かっても自分が死んだら・・・』とか『今回自分が助かっても・・・』、『もうお腹の子供が死んでいたら』なんて発想ははなからない。自分も子猫たちも助かることしか考えていないし、選択もないのだから後悔もしないでしょうね。
だから動物たちは強いんだと思います。人間のようにウジウジ悩んだり、ズルズルと悔やんだりもしないですね。
さらに思い当たりました。
彼女は動けなかったから動かなかったんじゃなくて、自らの意思で動かなかったんじゃないのか?と。
今彼女がすべきことは、
・自分の体力を回復すること。
・自分の精神を安定させること。
・お腹の子供たちに負担をかけないこと。
そのために痛みや恐怖に耐えながらも、意図的に動かないよう努力していると考えれば辻褄が合います。
彼女の行動の謎が解けました。謎が解けたのも本日2回目。
これで私も腹をくくりました。
私も人間として、文明の利器を出来る限り利用して彼女の意思をサポートしようと決めました。
・リスクを承知の上で、母猫も子猫も両方助かる方法を選択する。
・後のことは、助かってから考える。
・この選択が正しいか正しくないかは今後考えない。
早速、現実的な答えを先生と相談しながら見つけます。
しばらく様子をみて、タイミングを見計らって帝王切開で子猫たちを取り上げる。という結論に達しました。
タイミングを見誤れば母子もろとも生命の危険があるのは承知の上で。
後は先生と病院のスタッフにお任せするしかありません。状況が変わって急な判断をしなければならない時にはすぐに携帯に連絡していただけるようお願いして、動物病院を後にしました。
振り返ってみる。
スタッフにサーバーの監視を託し、午後の商談に出かける道中で、今日の出来事を振り返ってみました。
私や妻が『もしも・・・』、『・・・の場合は』、『・・・の時には』等と悩んでいる間に、
当の怪我を負った野良猫は自分ができること、自分がすべきことを全うしていました。
もしかしたら、動物病院の先生もその辺を察しておられたのでしょうか?
いつもお会いする時よりも、なんとなく会話の間が長かったような気がします。
私の気持ちの揺れを見透かしておられた様な気がしてなりません。
だとしたら脱帽です。
ここ1~2ヶ月、トラブルや仕事の忙しさで、私自身本来何をすべきか?見失っていたことを見ず知らずの野良猫に教わった気がしました。